鉄分(Fe)の基礎知識

栄養素

鉄分とは

食品中の鉄分は、たんぱく質に結合したヘム鉄と、無機鉄である非ヘム鉄に分けられます。鉄はヘモグロビンや各種酵素を構成し、欠乏すると貧血や運動機能、認知機能の低下につながります。また、月経血による損失や妊娠・授乳中の需要増大が必要量に大きく影響するものでもあります。

 

日本人の鉄分推奨量とは

2020年度版の食事摂取基準では年齢や性別に合わせて鉄分の推奨量が定められています。

男性 7.5mg

女性(月経あり) 18~49歳10.5mg 50~64歳11.0mg

                  妊娠時は、上記推奨量+2.5mg(初期)、+9.5mg(中期・後期)が推奨

女性(月経なし・閉経後) 18~64歳6.5mg 65歳以上6.0mg

 

日本人の鉄分充足率

2019年度版の国民健康・栄養調査の結果では、鉄分の一般食品からの摂取量は男性8.3mg、女性7.5mgという数値が出ています。男性、65歳以上の女性では十分量を摂取できていますが、64歳以下の女性では推奨量に届かず、不足している状況です。

その理由は主に、以下の3つとなります。

①加工食品が増えた

加工食品になると、素材の時点では含まれていた栄養素がかなり少なくなります。特に穀類は、精製されることでマグネシウム・亜鉛・鉄といったミネラルが減ります。

②食材の変化

レバーを食べる機会が少なくなってきています。妊娠初期のレバー摂取は胎児に悪影響があるため控えるよう推奨される、生レバーが禁止になるなど、レバーが危険であるという風潮が広がっています。また、鉄分・タンパク質が豊富なクジラ肉も食べなくなりました。ラム肉も豊富ですが、北海道以外ではあまりなじみがありません。

③鉄過剰症のリスク

日本の医学教育は、欧米から取り入れた考え方が基本のため、日本人女性の栄養状態が鉄分不足であるという前提が共有されていないそうです。反対に、鉄のとりすぎからくる「鉄過剰症」のリスクを教えられているので、鉄分が危険であるという風潮が広がっています。

 

不足

鉄分不足の代表的な症状として、貧血(鉄欠乏性貧血)があります。

血液中の赤血球に含まれる、ヘモグロビンの構成成分に鉄が含まれています。ヘモグロビンは酸素を運ぶ大事な役割を担っており、酸素が回らなくなることで貧血の症状が引き起こされます。

酸素が脳まで行き渡らないことで脳機能が低下することもあり、頭痛や眠気といった症状が見られます。日中に集中力が続かない、判断力が鈍っていると感じたら、貧血の可能性があります。

鉄分が不足するとフェリチンが減少します。フェリチンとは、体内で鉄分を貯蓄する際にはたらくたんぱく質のことです。うつ傾向の人は、健康な人に比べてフェリチンが少ない傾向にあります。鉄分を十分に補給することは、うつ症状を抑制することにも繋がります。

 

過剰症

鉄分の過剰症には鉄沈着症や、それに伴う慢性疾患の発症の促進が挙げられます。

耐容上限量は男性50mg、女性40mgとなっています。日常の食事で耐容上限量を上回ることは少ないとされていますが、サプリメントなどを摂取されている場合には摂り過ぎに注意が必要です。

 

鉄分の多い食品(100g当たりで多いもの)

あおのり(乾)74.8mg ひじき(乾)55.0mg きくらげ(乾)35.2mg あさりの佃煮18.8mg 煮干し18.0mg 抹茶(粉)17.0mg 干しえび15.1mg ピュアココア(粉)14.0mg 豚肉(レバー)13.0mg 鶏肉(レバー)9.0mg レバーペースト7.7mg パセリ7.5mg はまぐりの佃煮7.2mg 牛肉(センマイ)6.8mg 豆みそ6.8mg たまごの卵黄6.0mg ほや5.7mg あゆ(焼)5.5mg しじみ5.3mg 鶏肉(はつ)5.1mg

 

1食あたりで鉄分が多いもの

動物性食品はヘム鉄を多く含みます。そのなかでも、レバーや赤身肉など、濃い色の肉には比較的鉄が多く含まれています。また、赤身の魚や、あさりの水煮などの貝類には鉄が多く含まれています。

豚レバー(60g)7.8mg 鶏レバー(60g)5.4mg 牛レバー(60g)2.4mg 牛ヒレ肉(100g)2.5mg カツオ(80g)1.5mg マイワシ(80g)1.7mg カキ(60g)1.3mg 鶏卵(60g)1.1mg あさり(30g)1.1mg

 

植物性食品のなかで鉄が多く含まれているのは、野菜のほかにも日本食でよく食べられている豆類や海藻類があります。

厚揚げ(140g)3.6mg 乾燥ひじき(5g)2.9mg 豆乳(200ml)2.4mg 小松菜(70g)2.0mg ほうれん草(70g)1.4mg 枝豆(50g)1.4mg そら豆(50g)1.2mg

 

鉄分摂取時の注意

鉄分の吸収率を高める栄養素

①動物性たんぱく質

良質なたんぱく質は、鉄と結びつくことで腸からの吸収を促進します。たんぱく質は、血液中の赤血球の材料にもなります。

 

②ビタミンC

鉄は主に十二指腸から吸収されますが、十二指腸は腸液の影響で弱アルカリ性となっています。鉄は、電荷の状態によって二価鉄と三価鉄が存在しますが、アルカリ性で溶けやすいのは二価鉄です。一方、食品に含まれる鉄は一般的に三価鉄なので、ビタミンCが一緒に存在すると、還元作用を受けて二価鉄となり、吸収されやすい状態になると考えられます。

 

③クエン酸などの果実酸

クエン酸やリンゴ酸に代表される果実酸には、ミネラルを包み込んで吸収しやすい状態へと変化させるキレート作用という働きがあるため一緒にとると効果的です。果実酸は果物や野菜、穀物などに多く含まれます。

 

鉄分の吸収率を下げる栄養素

①フィチン酸

玄米などの穀類の外皮にも多く含まれているフィチン酸は、鉄分をはじめミネラル類と強く結びつき、水に溶けない不溶性の成分へと変化することにより腸からの吸収を妨げる働きがあります。

主食を玄米としている場合は、分づき米や胚芽米と混ぜて炊く、玄米の浸水を十分にする、食べるときはよく噛んで食べるようにするなどの工夫で、フィチン酸による悪影響を抑えることができます。

 

②シュウ酸

シュウ酸はアクの成分であり、代表的な食べ物にはほうれん草やたけのこなどがあります。シュウ酸は鉄やカルシウムの吸収を妨げる働きがあります。

シュウ酸は水溶性であり、茹でるなどにより70~80%が水に溶け出すため、ほうれん草やたけのこなどはしっかりとアク抜きをすることが必要です。

 

③タンニン

コーヒーや紅茶、緑茶、赤ワインなどに含まれている渋みの成分タンニンは、鉄と結合する性質があり、水に溶けにくくなるため、吸収率が下がります。

 

④食物繊維

きのこ類や、海藻類、野菜類などに多く含まれる食物繊維は、デトックス効果が高い栄養素として知られていますが、必要以上に多く摂りすぎると鉄などの必要な栄養素までを排出してしまう可能性があります。

 

鉄分の多いメニュー

レバーのソース煮

レバーは体に吸収されやすい「ヘム鉄」が豊富なだけでなく、血液をつくるビタミンB12と葉酸も含む優秀食材。独特の臭みが苦手という人も、中濃ソースを使うことで食べやすくなり、ソース1本で味つけも決まるので手軽においしく仕上がります。

【材料】(2人分)

鶏レバー 240g

◎酒 大さじ2

◎中濃ソース 大さじ3

しょうが ひとかけ

【作り方】

(1)しょうがはせん切りにする。

(2)レバーは小さめのひと口大に切り、水につけ軽くかき混ぜる。3回ほど水を変え同様にかき混ぜ血抜きする。

(3)鍋に◎の調味料とレバー、しょうがを入れて中火にかける。ふつふつしたら弱火にして、10分ほど煮る。

 

小松菜ののり和え

鉄が豊富な小松菜には、鉄の吸収を助けるビタミンCや、血液をつくる葉酸も含まれています。のりも鉄が豊富な食材です。汁ものや和えものなどに混ぜるだけで、鉄補給に役立ちます。お好みで鉄と葉酸を含む「白すりごま」をふりかけてもよいです。

【材料】(2人分)

小松菜 1束

干しのり 1枚

ごま油 小さじ1

めんつゆ (3倍濃縮) 小さじ2~3

【作り方】

(1)小松菜は4㎝幅に切り、沸騰した湯でゆでて冷水にとり、水気を絞る。

(2)ボウルに小松菜、小さくちぎった干しのり、ごま油、めんつゆを入れて混ぜ合わせる。

 

厚揚げとほうれん草のオイスターソースソテー

大豆製品のなかでも栄養価の高い「厚揚げ」には、豆腐の約3倍の鉄と、約5倍のたんぱく質が含まれています。食べごたえも十分な厚揚げと、鉄の吸収を助けるビタミンCを含む「ほうれん草」などの青菜は、効率よく鉄がとれる相性のよい組み合わせです。仕上げに「白ごま」をトッピングして、しっかり鉄を補給しましょう。

【材料】(2人分)

厚揚げ 2枚(200g)

ほうれん草 1/2束

◎しょうゆ 大さじ1

◎みりん 大さじ1

◎酒 大さじ1

◎オイスターソース 大さじ1/2

ごま油 大さじ1/2

白ごま 適量

【作り方】

(1)ほうれん草は5㎝幅に切り、熱湯でさっとゆでる。冷水にとり、水気を絞る。

(2)厚揚げはひと口大に切る。◎の調味料は混ぜ合わせておく。

(3)フライパンにごま油を熱し、厚揚げを炒める。厚揚げに焼き目がついたらほうれん草も加えて炒め、合わせ調味料を加えて1分ほど炒める。器に盛ったら白ごまをふる。

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