クローン病と運動について

「そもそもクローン病でも運動していいの?」

クローン病は長期間に及んで症状の再燃や寛解を繰り返す難治性の炎症性腸疾患として主に潰瘍性大腸炎と並んでよく知られている疾患であり、殆どは根治的に治癒することがなく長い付き合いになる慢性疾患という範疇で捉えられています。

 

すなわち本疾患に関してははっきりとした病因が不明であり、従来では一旦診断されるとその人の生涯に渡りあらゆる多彩な症状や合併症によって苦しみ、運動や食事に関する生活の質を低下させる代表的な疾患として今日まで認識されてきました。

 

一般的に、クローン病の寛解期には日々のストレスや極端な疲労をため過ぎずに、暴飲暴食を避けるといった基本的な日常における注意を払ってさえすれば運動することを含めた生活面を過度に制限する必要はないと言われています。

 

クローン病における症状の重症度によりますが、その病勢が的確にコントロールされていれば、基本的に特別な運動の制限はなく、沢山の疲労が貯留しない程度の運動もできます。

 

ただし現実的には、クローン病自体の病状や治療時点での経過やその詳細な内容によって運動を制限する必要性は異なってきますので、小まめに主治医と良くご相談ください。

 

長く病気と付き合っていく上で、病状に合わせて個々の患者さんごとに自分自身で適切な運動の仕方を見つけられると良いですね。

 

「運動がクローン病にどのような影響を与えるのか?」

 

厚生労働省の専門研究班によると、クローン病に対する治療指針においては治療の主目的はあくまで病勢を良好にコントロールして、患者さんひとりひとりの生活の質(QOL)を無理なく高めることと提唱されています。

 

クローン病の10年生存率は概ね90%以上と高いですが、実は発症する年齢は若年層が多く、そのうえ再発率が50%以上と約半数の方が長期的な視点から症状再燃されると言われています。

 

その事からもクローン病患者では容易に運動耐容能が低下してしまうことが予測されていますが、実際のところ前述した治療指針そのものには運動療法の明確な有効性は十分に含まれておらず、その有効性を裏付ける確固たる証拠やエビデンスもこれまで確立されていません。

 

ところが、色々な調査研究が提唱しているようにクローン病の合併症増悪に最大限注意して運動療法を慎重に実施することにより、患者さんの運動耐容能レベルを現状維持したり、さらなる運動能力向上に繋げて、個々の活動範囲を拡大し、ひいては生活の質を存分に高めることができる可能性があると考えられてもいるのです。

 

心身の強い負担になる運動レベルは避けたうえで適度なエクササイズは上手く調整できれば本疾患の活動性を低下させ、精神的なストレス負担も軽減できるという報告もあります。

 

うまくクローン病と付き合って、運動と上手に向き合うことで腹部の症状などを自覚することが出来る限り少ない状態をなるべく長期に渡って維持して快適な日々の生活を送ることができるように工夫しましょう。

 

「クローン病の人でもこんな時は運動を控えよう」

 

病状が落ち着いていて、自身の栄養状態の悪化などが認められない場合には、一般的な運動は行ってもよく、実際に活動量が多く求められるスポーツ選手のなかにもクローン病の患者さんがいらっしゃいます。

 

適度な運動は精神的ストレスを軽減でき、特にクローン病の寛解期では大きな運動制限は設けられていません。

 

ただし、日頃の簡単な運動を含めてこの病気だけを理由にして日常生活を強く制限する必要はありませんが、だからといって運動直後やその翌日にまで疲労困憊で疲れを持ち越すような無理だけは禁物ですよ。

 

なぜなら繰り返しになりますが、クローン病の症状は過労の程度や過度の心身的ストレスによって悪化する可能性が高く、普段の生活においては運動後にも適切な安静を保ちつつ十分な睡眠をとり、出来る限りストレスの少ない生活を送ることが何よりも大切だからです。

 

つまり運動する際にはくれぐれも疲れが残りすぎない程度に抑えておくことを念頭に置きながら、趣味の時間を楽しんでストレスを極力溜めないように、自分なりの対処法を常日頃から気にして身につけておくことが重要ですね。

 

合併症が出現しているケースや治療経過によって貧血や関節痛などを自覚する場合には決して無理をしないように工夫して、どの程度までの運動が可能なのかを普段から主治医の先生と良く相談しておくように心がけておきましょう。

 

また、ステロイドの大量内服する治療の最中や、運動そのものが疲労の直接的な原因と考えられる時に便回数が極端に増えるような場合も激しく動くのは控え目にして下さいね。

 

そして重要なのは、個々の症例での疾患活動性や病態をかかりつけ医のみならず自分自身できちんと把握して、その都度で最も適した治療を選択して厳重に経過観察を行うことです。

 

今回の情報が少しでも参考になれば幸いです。

<参考文献>

・平井郁仁、松井敏幸:クローン病内科治療ガイドラインから. 日本大腸肛門病学会雑誌. 2010 年 63 巻 10 号 p. 855-862.

・青木伸、工藤恵美、齋藤繁幸:クローン病再燃し外科的治療後、運動耐容能向上を目指した一症例─運動療法の可能性─. 理学療法学Supplement. Vol.39 Suppl. No.2 (第47回日本理学療法学術大会 抄録集).

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